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桃の節句

雛祭りはとっくに過ぎましたのでいまさらですが、行事は抑えておきたいので書いてみました。
カップリングはありませんが、こちらがアリアバート総受けの腐女子向けブログだということを念頭において呼んでください。
続きを読むよりどうぞ。








「そう言えば、本日は3月3日であったな」
定例の御家族会議で突然アジュマーンが言った言葉に、アリアバートとジュスランはぎくりと内心の警戒を強めた。
「アリアバート卿とジュスラン卿に置かれては、懐かしい事であろう」
懐かしくなどない。決して懐かしくなどないから、もうその話は持ち出さないでほしい。
しかし二人の内心を無視して…無視してはいないのだろう、きっと知りつつ言っているに違いない。
「二人とも未だ独り身のようだが、やはり雛壇は早く片付けなかったのか?いかんな。」
藩王の言葉尻に乗っかって、イドリスも二人に対するからかいの言葉を吐く。
「まだ仮にも二十代でありますし、理想を下げれば貰い手もいない事はないでしょう。」
「…雛壇の迷信は女子の場合であったと思われます。私たちには関係のない話です。」
「そうであったか?」
「はい、確かに。」
「だが、懐かしい。この日が来ると、貴公らの御母堂を思い出す。」
と言って豪奢なテーブルの上に立体映像が映し出された。なんとも美しい少女が二人…。褐色の髪に印象的な目の愛らしい少女と、淡い金髪にすんだ青い目の人形のように美しい少女。
それを見たとたん、アリアバートとジュスランは藩王の御前にも関わらず取り乱して要求した。
「こんなものをどこから・・・!」
「お消しください、藩王殿下!」
しかし二人の必死の嘆願にもかかわらず、アジュマーンはそれを消さず昔話を懐かしむ口調で言った。
「毎年、雛祭りのパーティーでは評判になったものだ。『女でないのが惜しい』とな」
「殿下・・・!」
結局、二人の意見は通らずに、アリアバートとジュスランはその少女らを眼前にして、会議の間中居た堪れない思いを味わった。



会議後、五家族専用サロンにてアリアバートが疲れたように言った。
「前々から思っていたのだが、アジュマーン殿下は少し意地悪じゃないか?」
「そんな事今更だろう。」
やはり疲れたように応えたのはジュスランだった。
「藩王殿下に対して、無礼だぞ。」
と二人をたしなめるのはザーリッシュだ。
しかし長兄二人に口で勝てるザーリッシュではない。
「そう言えば、貴公の所はアルセス卿が同じ目にあっていたのではなかったか?」
「たしか、嬉々として女装していたな。」
思い出したくない過去なのは、ザーリッシュも同様であった。アリアバートとジュスランと違って、ザーリッシュのそれは間接的なものであったが、抹殺してしまいたい過去である事に変わりはない。
「しかし、ジュスラン卿は良く似合っていた。なんとも愛らしかったぞ。」
「いやいや、アリアバート卿には負ける。まるで人形のように美しかった。」
褒めあってはいるようだが、実はただ単に過去の傷の抉り合いをしているだけである。
互いに碌でもない母親を持ったアリアバートとジュスランであるが、母親との思い出の中でもトップ1で思い出したくない事が、毎年一回巡ってくる『雛祭り』であった。元々は大昔のどこか一地方の行事であったと聞くが、民族的な壁のなくなった現代においてはタイタニアにも祝われる行事となっている。
その日は盛大なパーティーが開かれ、その日を境に社交界デビューをする少女は多い。
その日ばかりはパーティーの会場からは普段の荘厳な雰囲気は消える。昔からのしきたりによりピンクを中心に彩られ、沢山の花を飾られて、年若い彼女らのために時刻も早くから行われる。少女らは特にとびきりの衣装で着飾り、華を競う。
男も行事に参加しないわけではないが、この日ばかりは女性の圧力に押されてしまうのが常だった。
そんな中、アリアバートの母親の、『女の子も欲しかった』発言により、アリアバートは幼いころからその日だけはドレスを着せられてパーティーに参加していた。それはもう愛らしい少女姿にさせられたアリアバートだった。
それを見て対抗意識を燃やしたジュスランの母親は、次の年にはジュスランをドレス姿でパーティーに参加させたのだ。

その二人の対抗心に刺激され、一時期雛祭りに男子を女装で参加させるのがブームになっていたこともあったくらいだ。それを免れえたザーリッシュとイドリスであるのが、その理由はそれぞれ違う。
イドリスにあっては生後すぐに母を亡くしており、母親が生きていれば同じであったかわからない。だが、もしイドリスの母が存命で、ブームに乗っかったとすれば、アリアバートとジュスランを上回る美少女ぶりを見せてくれたことだろうと評判だった。
ザーリッシュは、母親がザーリッシュをちらりと見て、『この子ではねえ・・・』と呟いたのを、当時三歳であった彼は覚えていた。そしてアルセスが生まれてからは、母親はアルセスを着飾ることに夢中になり、ザーリッシュは強い疎外感を感じていた。決してドレスを着たかったわけではなくとも、実は結構傷ついていた事は、誰も知ることはない。

しかし、物心つかないうちは良いとして、自我の芽生え始めたころから二人は女装に強い抵抗を覚えていた。着る着ないの言い争いは毎年の慣行行事になっていた。
「アリアバート卿は、御母堂が生存ならば今でもドレスを着たのかな」
ジュスランは父親に泣きつき、8歳になる頃はドレスを脱ぐ事が出来た。だがアリアバートには頼れる父親はおらず(頼れない父親ならいた)、強かな母親との言い争いにも結局勝てずに、毎年着る羽目になっていたのだ。しかしアリアバートも無能ではなく、何とか期限だけは取りつけることに成功した。
「それだけはあり得ない!!元々が声変わりまでと言う約束だったのだから」
しかし気の毒な事にアリアバートの声変りは遅かった。結局15の年までドレスを着て雛祭りパーティーに出席していた。煌びやかなドレスは、母譲りの美貌を持つアリアバートに非常によく似合っていた。
その後すぐに声変りが始まったが、ちょうどその年アリアバートの母親は謎の死を遂げた。恨みの多い女だったので、一般に暗殺だと言われている。
「しかし、思い出すな。あの間抜けな求婚者」
ジュスランがまた嫌な事を思い出してきた。
「忘れろ、そんな事は!」
社交界の女性は、15ともなればそろそろ結婚を考えてもおかしくない年齢である。
アリアバートの美貌に目を留めた二十代半ばの青年貴族が、公衆の面前で熱烈な愛の告白をしたのだ。
美しい瞳がなんたら一目見た瞬間にどうのと熱心に口説こうとしていた。周りから失笑を買っていることにも気付かないほど必死に。
困り果てたアリアバートの手を取り口づけをしようとしたので、アリアバートが思わず殴りつけてその男は伸びてしまった。
男に求婚した男としてすっかり印象されてしまった彼が、その後の人生幸せを得る事が出来たのかどうかはアリアバートの知るところではない。
「もう、二度と女装などするものか…」
「同感だ」
その件に関して、常に二人の意見は一致している。





    後書

年上の親戚って、覚えていて惜しくないことに限ってよく覚えていて、よく話題に出してきますよね・・・。

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