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美の価値

再びジュスラン視点の小説です。
ジュスラン→アリアバート未満です。まだ恋愛感情かどうかも定かでない感じで。
最初の題名は、「ジュスランの妄想」だったのですが、書きあがってみると全然違う内容になってしまったのでやめにしました。

ジュスランはアリアバートを観察することが好きだった。顔に身体、どこを見ても楽しいと感じていた。
幸いにアリアバートは貴族特有の鈍感さで人に見られることに慣れており、ジュスランがどれだけ観察しようが気づくことはなかったし、たまに気づかれても、ジュスランに悪意があると誤解するような関係の二人でもなかった。
今日は本当に偶然だが、アリアバートが目の前で着替えている。
普通貴族は使用人に着替えを手伝わせるので、人前で裸になることを躊躇はしないが、それでも普通使用人以外の前で裸になることは、それこそ恋人や夫婦でない限りありえない。
ではなぜジュスランの目の前で着替えているのか。
原因は10分前に遡る。

「申し訳ありません!」
可哀想なほど震えて頭を下げる新人の使用人に、アリアバートは軽い溜息をつくと、
「もうここはいいから、服を持ってきてくれ。着替えたい。」
その新人の使用人は間抜けにも何もない所で盛大にこけ、その手に持っていた紅茶の入ったポットの内容物がアリアバートにかかったのだ。
「アリアバート、大丈夫か?」
紅茶は熱いものだ。ほとんどがマントにかかっていたが、やはり心配であった。
「ああ。さほど浸みてはいないから、熱くはない。」
幸い火傷をする事はなかったが、これが不寛容な主人であれば即解雇か厳しい罰を与えられたところであろうが、その使用人にとって幸いにもアリアバートは寛容な主人であった。
一つ不幸があるとすれば、アリアバートのファンであるメイド等から今まさに眼をつけられ、修業後には間違いなく何らかの制裁を受けることであろう。
今後職場は針の筵であろうが、とにかく職を失うことは避けられた使用人は、慌てて服の用意に走り、またこけた。
「新しい使用人か?」
ジュスランとて使用人の顔をいちいち覚えているわけではないが、あんな間抜けをする使用人がアリアバート邸にいたことは今までなかった。
「ああ、使用人頭の親戚なのだが・・・どうも不慣れでな。これからはあまり目の届かない所で仕事をさせるようにしよう。」
ここで解雇とならない所がアリアバートの優しい所なのだろう。
「そうだな、恐ろしく緊張していたようでもあるし、最初は簡単な雑用から任せた方がいいだろう。」
と、このように、主人も客人も怒ってはいなかったのだが、話題の使用人の口利きをした使用人頭はそうもいかなかった。報告を受けたのかあわてて飛んできて、今にも卒倒しそうな蒼い顔をしていた。
「申し訳ありません、アリアバート様!今度こそ辞めさせますゆえ、何とぞお許しを!」
アリアバートにとって使用人頭は、長く家に使えている男であり、家の中の事は彼が一番よく知っていて、彼がいなくては家の中が回らない。それ故アリアバートは、些細な事で彼との良好な関係を壊すつもりはなかった。
「辞めさせなくてもかまわない。ただ、これからはあまり壊れモノのある所では働かせないようにしてくれ。」
間抜けな使用人が落としたティーセットは、すっかり破損していた。一体どれほどの値がつくものなのか・・・使用人頭は目の前が暗くなり、思わずそれが顔に出ていたが、アリアバートは別に彼らに弁償させるつもりはなかった。そもそもそれがいくらになるのか興味もなかったのだ。
「それに関してはかまわない。どうせ古いモノだ。祖父の代からあるから、もう価値も下がっているだろう。」
一般にそれはアンティークと呼ばれ、時を経るごとに値打ちも上がるものなのだが、アリアバートはそんなことに興味はなかった。大体そんな物は、アリアバート邸には腐るほどあるのだ。
使用人頭が平身低頭していると、ベテランのメイドが服を持って、
「お召しものの用意ができました。」
と伝えに来たので、アリアバートは着替えるべく別の部屋へ行こうとした。
「少し、失礼する。」
だが、ジュスランはそれを止めた。
「別にかまわないから、ここで着替えるといい。」
「あ、ああ。わかった。」
この場合かまって欲しいのはアリアバートだと思うのだが、ジュスランがいいといった手前よそで着替えるのもはばかられ、アリアバートはジュスランの目の前で着替えることになったというわけだ。

(奇麗な髪だ。どうしてあんなに美しい色をしているのだろう?睫まで同じ色だから、青灰色の瞳とバランスがとてもいい。顎のラインも素晴らしい。完璧なラインを描いている。男らしいのに優美さがある。)
芸術家を育てることには興味があるが、芸術そのものには余り造詣の深くないジュスランにとって、アリアバートは珍しく見る価値のある芸術品だった。
(後頭部から首のラインが流れるようだ。頭の形がいいのだな。くびすじから背骨の下まで歪みがない。筋肉のバランスも均整が取れていて、奇麗な背中だ。しかもしみ一つない。)
ジュスランの観察は、顔から身体に移った。何の躊躇もなく服を脱ぎ、再び新しい服を使用人に手伝われながら着ていくアリアバートを観察する。
すぐに新しい服を着たので余り長く観察できなかったのが残念だった。


ジュスランはとても満足していた。何せとても良いものが見られたのだから、今晩はきっといい夢が見られることだろう。
「やっぱ一番はイドリスさまだろう。」
不意に誰かの声が聞こえた。通路なので誰の声がしても不思議ではないのだが。
「そうか?やっぱザーリッシュ様のほうがかっこよくないか?」
どうやら見張りの兵が退屈紛れに世間話をしているようだ。どうやら四公爵の話らしいが、自分の事ながらあまりによく噂になるので今更興味がわかないのでそのまま通り過ぎるつもりでいた。
「だから、ザーリッシュはそりゃたくましくていらっしゃるし、男らしくてかっこいいことは認めるけど、顔の良し悪しで言えば断然イドリスさまだって。」
どうやらこの二人の見張りは四公爵で誰が一番顔が言いかを決めようとしているらしい。ジュスランにとっては本当にどうでも良かったが、3人目の声が聞こえたときにピタリと止まった。
「アリアバート様も美形じゃない?」
アリアバートの話題が出たからだ。しかしジュスランはそのことについてあまり意識はしていない。無意識に聞き耳を立てる。
「バカだな、そりゃ、アリアバート様は顔は整っていらっしゃるさ。でも、それだけだ。なんかこう、説得力が足りないんだよな。」
「そうだ、それくらいならジュスラン様のほうがまだ印象的だぜ。アリアバート様が美形なのは認めるけど、整いすぎててなんか印象が薄まるんだよ。」
ジュスランに反論は多くあったが、一般兵士の会話にまで口を出していては無駄に緊張を生んで規律の乱れにつながる可能性があるので何も言わずに通り過ぎた。

ただ、間の悪い日とはあるもので、その晩のパーティー会場で、カーテンの陰で噂話をささやきあう少女達数人の会話もうっかり聞いてしまった。年の頃は16,7といったところで、おそらく社交界デビューを果たしたばかりだろう。
「ね、誰が一番いいと思う?」
「やっぱりイドリス様じゃないかしら?若いし、四公爵の中では一番の美男子よ。」
「私はザーリッシュ様がいいわ。あの逞しい腕に抱かれてみたい。」
「ジュスラン様の深い目に見つめられたいわ。」
5,6人の少女たちは、それぞれ好きな方に同意した。ふと、一人の少女が思い出したように言う。
「アリアバート様はどうかしら?」
すると他の少女が口々に反論する。
「そりゃ、アリアバート様は美男子でいらっしゃるけど、イドリス様には叶わないわ。」
「そうよ。それにアリアバート様はお顔立ちは整っていらっしゃるけど・・・なんだか無個性でつまらないわ。」
「やっぱり男の方は筋肉よ。」
「あなたのそれはちょっと特殊な趣味だけど、そうね、アリアバート様は美男子だけど無個性なのよね。それなら多少美形度は落ちるかもしれませんけど、ジュスラン様のほうがいいかもしれませんわね。あの深い瞳が印象的で素敵だわ。」
少女らの勝手な意見だった。どちらにしろ彼女らの手に届く存在ではないのだが、好きに点数をつけ、どちらも自分の者になるわけでもないのにどちらがいいと贅沢に選ぶ。
若さゆえだろう。
しかしそれにしたってアリアバートに対する酷評はどうだろう。美形と認めつつコケ下ろされている。
公爵でこれなのだから、もしも彼が公爵でなかったら一体どのような評価が下されることか。
ジュスランは自らの感覚と世間の感覚のずれを認識し、よく頭にとどめておくことにしたが、特にそのズレを改めようとは思わなかった。なぜなら。
「やあ、ジュスラン。」
先ほどまで貴族や資産家に囲まれ社交辞令で笑っていたアリアバートが、ジュスランを見つけ心底嬉しそうに笑った顔はやはり美しかったからだ。
目も、鼻梁も、唇も、輪郭も、全てが計算しつくされたように正しい位置にある。
それを無個性だと言う者がいることは知っていたが、ジュスランは真円の美に対して価値を認めていた。
この美しさをつまらないと感じるようになるなら、世間一般の感覚とやらはよほどつまらないものなのだろう。
カーテンの陰の少女らは、すぐそばにいたジュスランにようやく気づき、先ほどの会話を思い出して蜘蛛の子を散らすように逃げていった。



   後書
ジュスランが「いいもの見た」と言ってるのは決していやらしい意味じゃありませんよ。例えばおみくじで大吉を当てたとか、そこらへんの良いものです。だからいい夢って言うのも決していやらしい夢なんて意味じゃありません。・・・たぶん。

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