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食事の作法

カップリングはありませんが、アリアバート総受けな感じです。
BLが嫌いな人は読まない方がいいと思います。
ちょっと長いですが、内容は薄っぺらいです。





「ようやく終わったか。」
アリアバートが攻め入ったのは小さな惑星だ。仮にA星としよう。
A星自体はただの辺境の貧乏な惑星であり、利用価値はほとんどない。
だが、その先の惑星でレアメタルが発見された。その星は、仮にB星とする。
B星は無人の惑星でもあったため、タイタニアは早々にB星を手中に収めた。
そして間にある目をかけるほどでもなかったはずのA星は、中継地点の補給港として目をつけられた。だがA星の住人は、長らく外部との接触は最小限しか取っておらず、かろうじて言葉は通じるものの、頑固で保守的で、何よりタイタニアの強大さというものを理解していなかった。それ故タイタニアが補給港として宙港を開くよう求めても、あっさりと断り、その要求が脅しに近くなっても、尊大に門前払いをかけた。
タイタニアは当然怒り、四公爵の一人であるアリアバート・タイタニアが艦隊を率いてその星を制圧に派遣されるにいたった。

アリアバートは無血停戦の道を探り、まず艦隊を地表から肉眼でも見えるほど近づけタイタニアの強大さを見せつけた。
効果はありすぎるほどにあった。
惑星内には混乱が起こり、大規模な政権交代が起こった。主だった首脳メンバーがほとんど変わった惑星政府からは、早々にタイタニアとの交渉の席に着くことを了承するとの連絡が入った。民衆の間には、新政府の弱腰に批判する者も少なからずあったが、そんなことは惑星政府の気にするべきところでありアリアバートの知ったことではない。
アリアバートはその日、彼の言うところの「不平等条約」を結ぶためにその地表に降り立った。遠い惑星までやってきた苦労は、この条約の締結とともに終わる。



条約締結のための交渉が行われたが、タイタニアにとっては良くある事でもA星側にとっては国の命運を左右する重大事項であった為、当然一日やそこらで終わるわけがない。勿論そこのところはアリアバートも理解していて、忍耐強くA星に居続けなければならなかった。
この仕事、忍耐を必要とする分、利益は大きい。この星が開かれれば、アリアバートに連なる者がこの星とその先にある資源惑星の管理を任される事になっている。イドリスやザーリッシュも名乗りを上げたが、アリアバートが名指しで指名された。そしてそれは、この星にとっても幸運だったのだ。忍耐強さと寛容さと言う面において、タイタニアでアリアバートの右に出るものはいなかった(もっとも『タイタニアにおいて』と限定される範囲の話だが)。


条約の交渉も、多少の脅しを混ぜながら、アリアバートにとっては恙無く、相手側にとっては苦い思いで様々な不利益をのみこまされて、1日目の交渉は終わった。
しかしそれでお開きとはいかないのが外交の面倒なところで、アリアバートは正式に招待された夕食会に参加しなくてはならなかった。
護衛と書記に、補佐役。必要な人数を連れて席に座ったアリアバートらの前に、皿が出された。空だ。
別に嫌がらせというわけではないだろう。相手側の席にも空の皿が出されている。おそらく大皿から取り分ける形式なのだろうとアリアバートは判断した。そういう食文化もあることは承知している。
アリアバートは、貴族の嗜みとして当然あらゆる食事の作法をマスターしている。連れの者もそれなりに教養のある者を選んだ。
ナイフとフォークとスプーンでの食事を優雅にこなせば、箸を使った食事も完璧にこなす。
その点についてアリアバートは何も恐れてはいなかった。・・・食事の始まるまでは。
ただ、フィンガーボールが配られた頃から、嫌な予感だけはしていたのだ。
大皿に見たこともない料理が並べられ、テーブルが華やかになっても、箸もスプーンもフォークも一向に出される様子がなかった。
アリアバートが困惑していると、A星の者は皆、取り分けられた食物を直接手で食べ始めたのだ。
見たことのない食事法に、アリアバートと配下の者は困惑した。
ショッキングなことに、この星では食事は手行うものらしい。
しかしどれだけの衝撃を感じていようと、アリアバートはこの場で食事をとらなくてはならなかった。
ここで食事を取ることを拒否すれば、アリアバートが条約の締結に乗り気でないと判断される可能性もでてくる。
変に勘繰られて、漸くまとまりかけている交渉に支障をきたしても困る。
条約調印という大きな出来事であるから、当然のようにマスコミはこの場にもいる。
その星内だけではなく、タイタニア御用達のマスコミも、反タイタニア的な記事の乗ることのある新聞社までがこの場を監視するようにカメラを構えているのだ。
再び戦火を上げないためにも、アリアバートは食事を取らねばならなかった。
一瞬の逡巡の後、アリアバートはその純白の手袋に手をかけた。
きっちりとアリアバートの手に合わせて作られたその手袋は、容易には脱げない。もちろん動きを妨げるような雑な造りはしていないが、そのレトロな素材に伸縮性は乏しかった。普段は着替えを手伝う者が脱がせるのだが、今この場にはいない。一人で脱げないわけでもないが、少々手間がかかるのだ。
伸縮性がないために捲ることが難しく、特に半ばまでが時間がかかる。片手で脱ぐには、じれったくなるほどゆっくりとずらしていくしかない。
しかし半分まで脱いでしまえば後は結構簡単にすっぽりと脱げてしまう。
もう片方も同じようにして脱げばよい。
だが、アリアバートは今更ながらに手袋のないことに抵抗を覚えていた。普段素手を晒すことのないアリアバートにとって、公衆の場で手袋を脱ぐことは、衣服を脱ぐことに似た行為のように感じられるのだ。
何やら見られているような気さえする。時間がかかるとはいえ所詮は手袋なので、気にするほどの間でもないはずなのだが・・・。
しかし考えれば、そもそも主賓であるアリアバートが注目されないはずはないのだ。アリアバートは視線には慣れているはずだったが、無防備になってしまった手の感覚が、アリアバートを無性に落ち着かなくさせるのだろう。
脱いでしまった利き手の手袋を、また改めて装着したかったが、そうするわけにもいかず、諦めてもう片方も同じように外した。
アリアバートの羞恥に満ちた逡巡にも関わらず、その表情は至って平静のようだった。
しかし何かしら伝わるものがあるらしく、それを見守る同席者は、現れた優美な白い手に、長い指、形の良い指先に、整えられた桜色の爪に、何やら居た堪れないものを感じるような気がしていた。

アリアバートは素手になると、給仕が大きなスプーンのようなものを使って大皿から手前の小皿へと食事を移して、アリアバートの前へと出した。
周囲を見習い、右手でその食事を口へ運ぶ。
手掴みの食事など、野蛮なものだと思い込んでいたアリアバートだが、それを習慣とするA星の者たちからは野蛮さは感じられず、気品すら感じさせられる。作法があり、それを守っている為だろう。しかしそれでも、初めての食事方にアリアバートは強い違和感を強いられている。だが、そんなことはおくびにも感じさせず、談笑するのはさすがと云ったところだろう。
食事は少々香辛料が強かったが、おそらく最上級の材料で作られたのだろうことだけは分かった。
三日も続けばそれが美味なるものであると認識するにいたるのだが、アリアバートは味より何より、素手を晒す事と食事方に対する違和感を、自らの内で騙すことのほうに集中せねばならなかった。

アリアバートが食べ始めた以上、どうして付き添いである者たちが食べないでいられるわけがあろうか。彼らもアリアバートに習い手袋を脱ぎ、食事を口に運ぶ。A星の者を盗み見ながら無作法にならないようにと気をつけているのだが、慣れぬ食事法の為、A星の者のように奇麗に食べる事はできない。
それではアリアバートはと、上司である公爵閣下をよこめでみると、これがなぜかA星の者達のように・・・いや、それ以上に美しく食事をしている。彼も始めてであるはずなのだが、これは一体どこから来るのだろうか。もう努力だけではどうしようもない才能の差だろうか(食べるのに才能なんているのだろうか)。

条約の締結後、その星の新政府首脳とアリアバートは握手をして、両者の交渉が恙無く終わったことを確認する。
『握手』という習慣はこの星にはなかったはずだが、あちらから求めてきた。学んだのだろう。
「アリアバート閣下は、普段は手袋をしておいでなのですね。」
手を握ったまま、A星首脳が言った。
社交辞令異常の以上のものを感じさせる友好的な表情で。
「それが、何か。」
タイタニアにとっては"恙無く"とも、彼にとっては苦渋の条約締結であったはずであり、アリアバートはその裏を読み取るべく努力せねばならなかった。
「いえ、お美しいのに、もったいないと思いまして。」
わざとらしい程の褒め言葉。しかし手を握ったまま言うのはどうだろうか。警戒して振り払ってでも手を離すべきだろうか。
「・・・それは、どうも。」
革命に近い経緯でこの国のトップとなった若い男は、やはり何処か食えぬところがある。
「お食事の所作も、大変お美しかった。」
出てくる言葉は褒め言葉、浮かぶ表情は友好的な笑顔だが、それだけに得体の知れぬものを感じる・・・ようなきもする。
(こういうことは、ジュスランのほうが得意なのだがな)
アリアバートには、陰謀や策略と言った才能が、四公爵中では最も少ない。
「お褒めに預かり光栄です。ところで、握手とはそれほど長くやらなくとも良いのですが。」
しかしアリアバートの懸念に対してA星首脳はあっさりと手を離した。
「これは失礼いたしました。」
とにかくこれにてアリアバートの任務は終わり、あとはウラニボルグへ帰るだけだった。

アリアバートの死後のことになるので、アリアバートは知ることは一生ないが、この新政府主席は晩年本を出す事になる。政権交代から直ぐのタイタニアとの交渉と、内部の反発を抑え、タイタニアに追従しつつ国益を守る事に情熱を尽くした彼の本は、惑星外でもそこそこ売れた。彼は反タイタニアであったが、唯一アリアバート・タイタニアの事だけは人格的にわずかながら褒めている一文がある。いわく、アリアバート・タイタニアは、他国の文化を尊重する器を持った良識ある人物で、個人として付き合うには好ましい人物であったと。(正し彼がタイタニアでなければと注釈がつくが。)
主席は、このような偏狭の惑星には惜しいと言われたほどの人物であり、知識人でも合って、タイタニアについてはA星一詳しいと言われており、晩餐会の食事の用意を指示したのは彼であった。




アリアバートが帰ってきてからの朝食会にて。
「アリアバート卿には大儀であった。」
「もったいなきお言葉、恐縮にございます。」
「貴公を労い、本日のメニューはあの星の食事にした。貴公もずいぶん気に入っているようでもあるし。」
「は?いえ、私は・・・」
しかし有無を言わさずテーブルに並べられたのは、見慣れてしまったあの星の料理の数々。
しかしスプーンとフォークが配られているので安心していたら、アリアバートの前にだけは何故かフィンガーボールのみである。
優秀な給仕が忘れるわけがない。そのようなへまをすれば、運が悪ければ死刑を賜る可能性すらある。
「・・・藩王殿下、これは・・・」
「貴公はあの星流の食事の作法をマスターしたと聞く。スプーンもフォークもいらないはずだ。」
「私たちはあの星の食事作法を知らないので、無作法かもしれぬがスプーンとフォークを使わせていただく。」
アジュマーンに追従するイドリスの言葉も、アリアバートを追い詰める。
「ジュ、ジュスラン・・・」
思わず、隣に座る頭の切れる従兄弟に小声で救いを求めて見るが、
「何か問題でも?」
助けてくれる気はないようだ。
「…いや、なんでもない。」
「我らに手本を見せてくれ、アリアバート卿。」
ザーリッシュの言葉に、アリアバートは嫌々ながらに手慣れてしまった手順でその手袋を外すしかなかった。
普段手袋をしているアリアバートにとって、素手をさらすことは裸になるに準ずる羞恥を起こさせる。
それがましてや同席者はきっちりと手袋をしている状況でとなると、あの時の比ではない。あの星では、皆素手であったので、羞恥を感じることのほうこそ恥ずかしいというような気さえしていたのだ。だが今は・・・。
しかしアリアバートは脱がぬわけにはいかなかった。
右手の手袋を脱ぎ終わり、その桜色の爪先が露わになるころ、イドリスがアリアバートの顔色の変化を指摘した。
「何故赤くなる?アリアバート卿」
自覚はなかったが顔は紅潮しているのだろうか。素手をさらすことに羞恥を覚えている。それは確かに事実なのだが、それを知られることは更なる羞恥を呼び、無限のループのようにアリアバートの羞恥を煽る。
「何でもない、気のせいだろう。」
「そうか?」
何故素直に納得してくれないのだろう。
「そうだ・・・!」
アリアバートの口調が些か投げやりになってくる。
「なるほど、貴公の手は『美しい』な。」
藩王の言葉に、アリアバートの顔は自覚できる程熱くなる。色の白いのは損だと、アリアバートは思った。顔色の変化が顕著にばれてしまう。
「やはり赤いな。大丈夫か?」
ジュスランは本当に心配してくれているのかもしれないが、アリアバートは実はわざと言ってるのではないかと被害妄想に陥ってしまう。
「放っておいてくれ、頼むから」
諦めて食事を口に運ぶアリアバートの動作を、皆遠慮なく眺めている。
「・・・その、あまり見られると食べにくいのですが」
「貴公は手本だ。また誰があの星に行くかしれない故、食事の作法は学んでおかなくてはならない。」
あんな辺境の星に藩王が行くことなどあるのか?とはだれもが思う事ではあろうが、藩王の言葉に、一体だれが反論できようか。
「そうですか・・・」
アリアバートは現在の境遇を諦め、受け入れようと努力したが、しかしイドリスがからかうように言った言葉がアリアバートの心を落ち着かせない。
「手掴みなど下品だと考えておりましたが、なるほど、アリアバート卿は『食事の所作も、お美しい』。」
A星首脳の言葉を持ち出してくるのは、嫌味以外の何物でもないと、アリアバートは思った。
いつだって楽しく感じたことのない朝食会ではあるが、アリアバートにとって今朝の朝食会はまるで拷問のようであった。




     後書
何か長いですね・・・。
最後まで読んでくださり、どうもありがとうございます。
でも全く意味のない話で申し訳ありません。
アリアバートが公然とセクハラされている話を書きたかったんです。でもその前提をいろいろ考えているうちにこんなにだらだら長くなってしまいました。そもそもこの話、考察期間も長い長い。1か月前から考え続けていた話です。の割にあまり面白みのない話ですが、当時セクハラうけるアリアバートがマイブームだったもので・・・。
アリアバートは全然気づいていませんが、きっと読んでくれた方なら分かった事と思います。
そうです、皆様わざとです。悪意まんまんです。

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